ASKA new album を聴く。07.「Too many people」
「それでいいんだ、今は」のポジティブで爽やかな曲調から一転。
一気に照明は落とされ、ASKAさんだけがスポットライトの中に照らし出されている。
そんなイメージが湧いた。
心の奥底から吐き出しているかのような、ほとばしる感情に満ち満ちた歌い方は、哀感が漂い、心が泣いているようにすら聴こえる。
息を詰めて聴き入る。
大きな告白の欠片を前に、
微動だにできない。
12月24日
NewAlbum「Too many peole」の中から、「FUKUOKA」を聴いてください。
と、「FUKUOKA」の発表と同時にさり気なく明かされたアルバムタイトル。
「FUKUOKA」に大きな感動を覚えながらも、心の片隅にずっと引っかかっていた。
どうして「Too many people」なのか。
素直に考えると、あまりにも多すぎる人、とは否定的な意味を含んでいる。
甘すぎるケーキ、のように。
人々への感謝の中で出来たアルバムのタイトルに、人が多すぎて…、のようなニュアンスは、ちょっとピンとこなかった。
だから、
あまりにも多くの人から支えられて、感謝しきれない。そういった意味合いなのかな、と捉えてみたり。
考えにくいことだけど、同名タイトルの曲を創った、ポール·マッカートニーへのリスペクトもあるのかもしれない、とか。
いろいろな想いが過ぎる中、
アルバム発売の一週間前、『700番 第二巻/第三巻』の最後に『Too many people』の歌詞が載っていた。
それを読んで、
あぁ、やっぱり、
「群れ」の方なんだ、と思った。
個人的には、1999年にCHAGE and ASKAで発表された「群れ」は、もの凄く好きな曲だ。
ASKAさんの楽曲に関しては、好みのストライクゾーンはかなり広い方だと思うけど、詞、曲共、どストライクと言えるくらい、初めて聴いた時から惹き付けられた。
「Too many people」の歌詞は、その「群れ」の表現に繋がっているところがあると感じた。
縛られている鎖、レッテルを振り払いたい。
的外れな優しさはいらない。
「僕なりの言葉で語らせてくれ」
それを聴いて欲しい。分かって欲しい。
そんな心の声が胸に突き刺さる歌詞だった。
この時期に発表するのには賛否が分かれそうな、思いきった(と私には思える)表現、しかもこの曲をアルバムタイトルにしたASKAさんの、孤高までも引き受ける覚悟を感じた。
7月20日
夢を見るのはひとりでいい。みんなが夢を語り出したら、いろんな山が見えてしまいます。夢を語るのはアーティストです。スタッフは、その山を教えられたとき、たとえ、異論があろうとも、それを信じ、その山に向かう。これがひとつになるということです。
山の頂上。 - aska_burnishstone’s diary
周りは、私のことを真剣に考えてくれての発言だということは、深々と受け止めている。ただ忘れてもらってはならないことがある。周りのアドバイスは「私ではない」ということだ。
ブログや 『700番 第二巻/第三巻』でのASKAさんの言葉を思い出した。
アーティストであるからには必要な、譲れないポリシー。
歌には作者の心情や意図が反映されているだろうけど、感じるものは受け取り手によって違う。
そこからどう自分に照らし合わせたり、育てたり、解釈しても自由。聴き方は自分のものにできる。
それが歌、音楽の、芸術の素晴らしいところだと思う。
その意味でも、この歌はこれから自分にとって育っていく可能性を強く感じる。
だけど、
ASKAさんが今これを歌う意味としては?
叩ける相手には好き放題、真実も嘘もエンタメの一つとしてしか扱わない、レベルの低い一部のマスコミ。
何が真実で何が正義なのか、深く考えることもせず、それを信じ込み楽しむ人々。
それ以上の関心すらないのに、いっぱしの意見を分かった風に発言する。
「もっと床に這いつくばれば喜ばれたのか」
ASKAさんが歌ったような光景は、まさに昨年の逮捕時、さらにエスカレートして繰り返された。
「何度振りほどいても離れない危険」
「伝言ゲームで広がってゆく世間」への、
ASKAさんの憤り、やるせなさが伝わってくる。
そして、
「もう少しそこで待っていてくれないか
まだ残りが片付きそうにないんだ」
いつか真実の顔をはっきりさせるから、と。
もう一つ、
ChageさんやCHAGE and ASKAの活動に対しての、止むことのない周りからの問い。
「初めて聴くのに懐かしい歌」とは、Chageさんの最近のソロ曲。
「透明な思いが胸を透き通ってくる」とは、なんの混じり気もない、ASKAさんのChageさんに対する素直な気持ち。
そしてChageさんの「深い強い気持ちが伝わってくる」
「僕を大事に抱きしめてくれる人がいろんなことを言っては通り過ぎて行く」
関係者やファン、それぞれの意見。
そういったことに対して
「Too many people 耳を塞ぎたくなる」
「僕なりの言葉で語らせてくれ」
「もう少しそこで待っていてくれないか」
「まだ残りが片付きそうにないんだ」
「目頭が熱くなる」
2009年発表の「L&R」で、当時のチャゲアス解散の噂や無期限活動休止への疑問に答えたように、
「Too many people」では、そのことに関して言葉だけでは到底表わせない、ASKAさんの今の心情を歌っている。
真意は分からないけど、
私には、そう聴こえる。
そしてこれが伝えたいこと、と言わんばかりにアルバムのちょうど真ん中に位置する「Too many people」。
ミュージシャンASKAのたくさんの引き出しに圧倒される、濃い内容のアルバム。
その中でもひときわ特徴の強いこの歌には、ASKAさんの剥き出しの魂を感じられる。
こういった歌い方、曲調で、ASKAさんの表現の幅がさらに広がった、そう思った。
もしかしたらファンの間では、好き嫌いが激しい曲なのかもしれないけど、
私はこんなASKAさんの曲がずっと聴きたかった。
綺麗事ばかりではない、
複雑な現実。
それを振り切るような
魂の叫びに、
心が震える。